劇場版『この世界の片隅に』

 

公開以前から好評と聞いていましたので

(クラウドファンディング募集ぐらいからかな)

見てみたい作品のひとつではありました。

 

立川シネマシティの極上音響上映にて

RO公開前日に1回だけ鑑賞してきました。

県内でも上映機会はあったのですが

繁盛期だったので以後行けずじまい(汗)

 

ソフト化したので改めて

落ちついて見ることができました。

 

丁寧に描かれる「普通」の人々の暮らし

いい戦争映画だなあと思いますね。

(戦争映画の歴史を知らない人々は放置で・爆)

 

原作未読のまま映画を鑑賞

後に原作を読んだ人の感想です。

オーディオコメンタリーの内容にも

触れています。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

この作品が素敵なのは間違いありませんが

ちょっと長い前置きを。

 

戦争を扱った作品の中で目立ってしまうのは

戦場にいる兵士を中心とした作品や

戦略を立てる指揮官を中心とした作品や

国策に関わっている政治家を中心とした作品や

完全に無力な市井の子どもを中心とした作品

あたりなのだとは思いますが。

 

生き物も含めその時代の人々にとって

当たり前に続いていた日常が

「戦時」という変化を迎えても

ある日を境に完全に変質してしまうわけではない。

 

徐々に今までと違う景色に変わっていくが

その中で精一杯適応して過ごしていくのが

「生きる」ものたちである。

その日々を丁寧に紡いでいく作品ということで

近年戦争映画のヒット作としては

確かに珍しいタイプではあるのですが。

 

今までなかったとまで言われると

そうだったか……??と思わざるを得ないのですね。

(『二十四の瞳』や『チロヌップのきつね』が好きでした)

なので賞賛のコメントの中にちらほら見える

ある種の意見には辟易したりもしておりました。

戦争映画につきものではありますけどね……

 

では以下、感想です。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

簡単なあらすじ

 

時は昭和、第二次世界大戦下の日本。

 

広島に生まれ育った主人公・すず。

絵を描くことが大好きな

人よりちょっとのんびりしているものの

普通の日々をすごす、ごく普通の女性だった。

 

18才で縁談がもちあがり

呉に嫁ぐことになったすずは

新たな人々、土地の中で

日々の暮らしを紡いでいく。

 

毎日誰かが戦地へ向かい

暮らしの物は減っていき

遠い出来事に思えていた敵襲も

脅威を増していく。

 

そして昭和20年の夏を迎える──

 

☆☆☆

 

柔らかな描線と優しい色合いで

とても丁寧に描かれたアニメーションは

美しいものですね。

 

絵単体の力は原作のほうが

強いなあとはその後思ってしまいましたが

役者や音楽の力が合わさるのは

やはり複合作品ならではの魅力です。

 

ほのぼのと進んでいく

とてもあたたかな短編の

連続ではありましたが。

年号に詳しいととても怖い作品だなとも。

 

後の時代に生きる私たちは

「その後」のことばかりを想定してしまいますが

当時の人々にとっては「その日」までは

未知の出来事であったのだと

忘れがちなことを丁寧に描いてくれました。

 

主演もとてもすばらしかったのですが

脇の声優さんたちがお見事でしたね。

この方々は役者なのだと改めて感じました。

細谷さんと小野さん素敵すぎましたし

めぐみさんに助演女優賞をさしあげたい!!

 

駿さんが語る

「声優さん起用が嫌なあれこれ」とは

とやく語られる「俳優だからダメうんぬん」と

表裏一体なんですよね……

 

つまりスタッフが要求しなければ

声優さんはいわゆる「アニメ演技」のままに

なってしまうのであって

それは起用する側の問題なんだよな()

 

……と、大昔のアニメーション育ちは

思ってしまったりもします(笑)

合う作品に合う役者さんを用意してくれるなら

メインの活躍の場所はどこでもいいんだよ……

「舞台」「朗読劇」できる方がいいよね、とは思いますが。

 

以下、こまかい要素をピックアップ。

 

 

☆☆☆

 

 

☆周作さんとリンさんについて

私は原作未読での鑑賞組でした。

 

で、そういう視点で見ると

周作さんは少女マンガの相手役に

かなりふさわしい人物になっちゃってるんですよ。

 

確かに純粋な恋愛結婚ではありませんけれど

幼少期に出会いがあったり

あちらこちらでらーぶらーぶしていたりと

『ゲゲゲの女房』朝ドラ版での

しげーさんと布美枝さんみたいなさ(爆)

 

なので原作読んだ時は

ちょっと待って!?

このエピソードなんでカットしたの!!??

というのが第一感想になってしまったという(滝汗)

 

すずさんが花街で出会った女性は

幼少期にスイカの縁があった人物であることは

見ていてとてもわかりやすかったんですよ。

エンドロール後を見て、ああやはり

そうだったのか、と納得しました。

 

とはいえ作中でその後のエピソードが特にないのに

どうやら重要人物らしく描かれる

その理由はいずこ???と

謎が深まってしまったリンさん。

 

あれ?いつ名前教えてもらったんだろう??

ん?そんな台詞あったっけ??

あたりはわかりやすかったですし。

 

だから彼女のエピソードはカットされているのだろうと

想定してはおりましたけれど……

 

すずさんにも水原さんがいたので

周作さんにもいただろうとか

ちょっと考えればわかっただろうに

想定したくなかったのだなとしみじみ。

 

尺の関係と、主軸をどう設定するかの

違いが理由であるだろうと予測してはいますし

(監督の意見については

ブックレットやオーディオコメンタリー等のみ確認)

枝葉といえば枝葉なのかもしれませんが。

 

でも見ている側としては

だまし討ちにされた感があります。

空が落ちてきたみたいです(大げさ)

 

何でも知ってる必要はないけれど

知らなくても困らないことまで

後から知ってしまうのはどうなのでしょうね……

 

ある意味、すずさんの気持ちを

追体験できたとも言えるのでしょうか(爆)

時間がたったら落ちついてきて

オーディオコメンタリーのキャスト女性陣のように

きゃーきゃーできるようになりましたけれど。

 

リンさんは素敵な女性で

原作での二人の場面も大好きなので

完全版では是非組み込んでいただきたいな

とも思っています。

 

 

☆音響について

監督が駿組出身ということで

兵器の描写は生き生きしておりましたね(爆)

呉は浪漫の場所の一つであるからな……

 

特筆すべきはやはり「音」で

どれもすばらしかったです。

 

空を舞う軽い翼の音

空気を裂く大砲の響き

命を奪う落ちてくる砲弾

あの日の白い光の正体

 

映画の後半になっていくにつれて

顔に縦線が増えていくのでした。

立川の音響設備で見たので

威力が増していたのも確かですが。

 

主人公の嫁ぎ先が文官とはいえ

軍事関係者であること

物語から去ってしまう少女が

兵器が好きで詳しい人物であること

 

どちらも兵器と人間の関係性の

残酷さの象徴になっていてとてもよいですね。

 

日夜創意工夫を凝らして組み上げ

名前を覚えるのが楽しかったり

姿を見て心躍らせてしまうあれらは

怖いものをたくさん落としてきたり

目の前で大事なものを奪ってしまうものであっても

美しく、惹かれてしまうものなのだと。

 

すずさんが絵を描いてしまう場面は

本当によかったです。

 

☆☆☆

 

全体の時代考証は行き届いていて

とてもよかったと思います。

私から見てあれ?というのはなかったですし

詳しい方がうなるほどらしいですし。

 

ただ憲兵描写などに違和感があったとも

言えなくはないです。

しげーさんや手塚さんの

戦争作品を読んでいるからだろうか。

 

主人公サイドが酷い目に遭う必要は決してないけれど

軍艦を描いてしまう下りは

あまり笑い話になるようなことでもないような……

まあ海軍畑なら陸軍とは仲悪いものですけれど。

 

あとかなり細かいところでは

波のうさぎを水彩絵の具できれいに描くの

難しくないか……あれだけアクリルガッシュかな……?

というところが気になったくらいですね。

 

いい作品が生まれ育っていくその時代に

立ち会えるのはとても幸運なことだと思いました。