『残酷な神が支配する』

 

萩尾望都の作品。

 

ようやく読んだのは昨年の12月で

メモをちょこちょこ残していたのですが

上手にまとめられず、ずるずるかかっていました。

 

まだ不満はありますが

とりあえず公開してしまいます。

物語の感想は前半のみで

後半は「告白の否認」について。

 

※19.07.05に加筆・修正※

 

 

 

望都さんが描きたかったのは

主人公ジェルミの「告白」以降の物語なのでしょう。

だからジェルミが義理の父グレッグから受けた

性的虐待・迫害・支配等の場面は

あくまでも舞台を整える準備にすぎないのです。

 

そうはいっても……

 

読んでいる間は、ジェルミの思いに

ひきずりこまれないようにするのが精一杯でした……

 

どうせ本当にはわからないのだし

この人に感情移入などしてはならない

その資格は私にはないのだから。とはいえ……

 

ジェルミに対し、次々に突きつけられる現実。

かわいいガールフレンドと

未来や光を夢を見ていた少年が

あっという間に崩壊していく。

 

これはマンガだから?ただの絵と文だから?

ページを閉じれば、作り事だと思えるから?

だから消費できる??

……そんなはずがないでしょう。

 

なんでこんな非道いことができる人がいるのか。

本当に信じられない。でもいる、現実にいる。

理性の境界を超えた行為をする人間は。

同じ人間だとは思いたくないケダモノが。

そしてそれこそが人間なのだ……

 

グレッグという人物を象徴する1カットがある。

かつての妻リリヤが、ブランコを立ちこぎしている。

隣でグレッグがそのブランコを支えている。

白を基調とした画面、幸せそうにほほえんでいる二人。

そして次の、グレッグの言葉。

 

きみを

大切にしたのに

服も靴も 下着も

わたしが買った

読む本も

選んであげた

家も食べ物も

わたしが与えた

きみの瞳には

わたしだけが映る

きみの瞳には

わたしだけが映る

わたしの瞳に映るのは

きみだけ

わたしの すべて

だったのに

 

……なんて怖い場面なんだ

と顔がひきつりましたよ。

 

しかしグレッグは、誰から見ても善人であった。

大企業を運営する大金持ち。

二人の息子、多くの友人がいる紳士。

新しく迎えた妻、ジェルミの母サンドラを心から愛している。

 

その彼が義理の息子を性的に虐待しているなどと

きっと誰も信じようとはしない。

そう、ジェルミを殺人者だと疑い

「告白」を強要した

グレッグの長男イアンのように。

 

そして彼はその「告白」を受け入れられず

「否認」をジェルミに突きつけた。

そこから先は本当に長い物語。

 

☆☆☆

 

さて……

「告白」の「否認」をする人は本当に多いですね。

世の中には、口が裂けても言えない類のことは

確かにある。けれど。

 

だからこそ、その言葉が嘘であるとは

私には思えない。

それまでの自分の世界の認識よりも

目の前で話しているその人のほうを優先したいから。

 

否認をする人々は、目の前にいる「告白」する人が

どれだけの勇気を振り絞っているのか

考えたことはあるのでしょうか。

認めてくれるだろうか、受け入れてくれるだろうか

そんな他人への不信にまみれている状態であるのに。

 

事実なら、おまえが正しいなら言えるはずだ

そう言いながらも、自分の望む答えでなければ

そんなことがありえるはずはない、嘘つきだ

そういう言葉を平気で投げつける。

世間話と「告白」の区別もつかない人たち。

 

もし迫害(?)に関係している

くだらない話や嘘ばかり聞かされているのであるなら

真実を語る人々が近くにいないのであれば

それはあなた本人のせいだからね、とも

たまに言いたくもなるのです。

 

「否認」され続けた人たちが

どういう場所、どういう行為に向かうのか

考えたこともないんでしょう。

私はそういう場所が、そういう行為が

あまりいいものだとは思っていないけれど。

 

そこにいかなければ救われないと

思い詰めている方々には、何が必要なのか……

おそらく人によって少しずつ違う。

問いの出ない答えを求め続けて

ずっとずっと行くしかないのでしょうね。