『精霊狩り』

 

萩尾望都の作品。1971-74年発表。

全3編からなる、SF・コメディ短編連作。

第三次世界大戦後の近未来が舞台

「精霊」と呼ばれる超能力者たちと

それらを狩ろうするとする人間たちの物語。

 

私が所有しているのは1976年発行

当時の小学館文庫。同時収録作品は

・『キャベツ畑の遺産相続人』

・『オーマイ ケセィラ セラ』

・『ハワードさんの新聞広告』

あとがきあり。解説は大島弓子!

 

初めて読んだ望都さんの作品集です。

当時は作者名が読めなかった!

のちに本名と知って驚愕しました。

 

萩尾望都という作家のイメージを決定づけた

私にとっての四大作品は次の通り。

・『精霊狩り』

・『百億の昼と千億の夜』

・『スター・レッド』

・『メッシュ』

 

……趣味の合わなさそうな方は

読まないほうがいいかもしれません(汗)

以下ネタバレです!

 

 

大島さんの解説冒頭文が秀逸なので

そのまま引用します。(『精霊狩り』p.217)

血を吸って生きるポー族が、

シリアスかつ悲劇的なイギリス的キャラクターで、

その、ティータイムは音もなくバラの香りにつつまれるのに反して、

同じ人間に迫害される生物(いきもの)でありながら、

ダーナ・ドンブンブン(なんてすてきな名だ)一族のお茶時は、

高笑いと世俗的会話に満ちたいわばイタリア風キャラクターで成りたっている。

 

☆☆☆

 

第一作「精霊狩り」

季節はじめの精霊狩りの晩。

人間たちをからかっていたダーナは捕まり

半年ぶりの裁判にかけられる。

 

友人たちはダーナを助けようとする中

過去を研究しているティペント博士と出会う。

精霊はなぜ迫害されるのか?

 

☆☆

ヒロイン…ダーナ・ドンブンブン。

友人…リッピ、カチュカ、ブブ。

博士…ティペント・ナンセンス。

このセンスがすばらしい!

 

ダーナが捕まったことで、裁判が開かれるわけですが

この場面が風刺の宝庫でとっても楽しい!

「過去の例でそうなっとる!

 精霊は社会に害になる存在だ!」

という裁判官の台詞にはじまり

・七年ごとに浮気をする

・木の幹から生まれる

・屋根の上を歩く

……よって有罪!

 

つまり理由はなんでもいいのですね。

リッピ「セイシュクにってどういう意味?」

ブブ「意味なんかないよ そういう習慣なんだ」

にはじまり、キャッカシマス、コクソシマス

などの単語が飛び交う下りも大笑いです。

(しかし冷や汗もでるという……)

 

ダーナは堂々と有罪理由に反論し

法廷は裁判官、陪審員、精霊、マスコミ、野次馬でごった返す!

そもそもダーナが捕まったのは

人間の少年リールと逢い引きをしていたためでもあり

二人の悲恋もとりあげられます。

 

 

ダーナの友人リッピ、カチュカと裁判所で出会った

ティペント博士の話も素敵ですよ。

 

シャルル・ペロー、イソップは生物学者とみなされ

エンゼルは死滅した生き物となり

ヒューストンの像の正体はなぞ……

第三次世界大戦後、人類の生きてきた記録が失われ

一千年が経過。

神話と科学が共存している未来社会なのです。

 

博士の持っている資料によれば

精霊のような異人種は戦前も存在。

魔女、妖精、ミュータント、エスパーなど……

時代と社会によって守られたり狩られたりしていた。

現在の精霊狩りも風習でつづいているだけだと結論づけます。

歴史とは何か?すごく考えさせられる場面ですね。

 

 

ダーナに有罪判決が出た後、仲間たちが助け出し

少年リールを連れてくるところまで

楽しさにあふれておりますv v

 

 

 

 

☆☆☆

 

第二作「ドアの中のわたしのむすこ」

女学校生活を楽しんでいたダーナ。

心臓の音が聞こえると友人に相談すると

それはベビーではないかと言われる。

 

故郷へ帰る列車の中

ダーナは小さな女の子を連れた青年に出会う。

精霊に子どもが生まれる?

 

☆☆

 

生きたままのカエルをのみこんだみたい

というダーナの説明がおもしろいです。

そして校長先生に問いただされ

ベビーの話をしたときの反応……

「男女交際ABCD……

 ダーナ・ドンブンブン退学ーっ」

このテンポが素敵ですねv v

 

 

精霊の仲間たちはダーナの話を聞き

おなかのなかにベビーなんてありえない!

と大騒ぎ。ブブの透視の結果

小さな男の子がおなかの中にいることが判明。

 

カチュカとダーナはティペント博士の家を訪ねます。

博士の家でダーナは、帰りの列車で会った

小さな女の子チャシ-と青年イカルスに再会。

そこで二人が親子の精霊と知ります。

博士は、新人類時代の最初のまくあけかもしれないと語ります。

 

博士「生命は不思議だ…

 生物の進化の歴史がおなかのなかでくりかえされ

 いつかベビーはその小さなママのへやからでてくる!」

ダーナ「──ドアをあけて─生まれてくる─?」

「…わたしの息子」

 

仲間たちは博士の説明を聞き、ダーナのベビーを祝福。

精霊が自然界の法則に見合った生命体である

ということになるからです。

娘の精霊を持つイカルスは、父になることを提案。

ベビーの存在に不安になったダーナを連れ出します。

 

「ねえダーナ きみはその子を生まなければ

 今は精霊にとっていい時代じゃないけど……」

「それでも新しい時代がこようとしているのかもしれない」

「ティペント博士はベビーを産む精霊は

 これからどんどんふえてくるだろうって言ってたよ……」

イカルスとパパ・ママになろうと決めたダーナ。

雨が降る日、足をすべらせ階段から落ちたさい、

おなかの中からベビーがいなくなってしまいます!

部屋を探すと、ベッドの中ですやすやと眠っている。

 

一人でドアから出たダーナのむすこを

みなでかわいがる最後の場面が

精霊たちのあたたかな未来を象徴しているかのようです。

どたばたコメディ色の強かった第一作から

物語がこんな広がりを見せるのですね、すばらしいです!

 

 

 

 

☆☆☆

 

第三作「みんなでお茶を」

ダーナとイカルスが結婚して二年。

息子ルトルはベビーのまま二年間眠りっぱなし。

ダーナが継母であると知ったチャシーは

実の母を求めて昔住んでいた村へ向かう。

 

博士は古代資料を基に精霊の祖先を分析します。

精霊はどこからきたのか?

 

☆☆

 

三年に一度の月まつり。

ダーナは友人たちに誘われるものの

チャシーとルトルのことがあり断ります。

まつりに行きたいチャシーはテレポートで逃げ出し

カチュカに自分が継子であると知らされます。

自分の生まれた村にママがいると信じて

チャシーは一人旅立つのです。

 

継母……たいていの児童向けの本は

まま母と表記してあって、ままで母って何だろう?

と思っていたことを思い出します。

継父とはめったに言わないですしね……

チャシーの家出を

クラシックな行動と説明するのが愉快v v

 

 

ティペント博士と助手A(知る人ぞ知る人物!)は

『新約聖書』を研究中。マリア受胎の話から

有翼人種(神)が無翼人種(人)に

有翼の超能力を持った子どもを生ませたと解釈する。

 

助手Aは、有翼人種は精霊の先祖であり

アクマという有尾人種もつながっていると推理。

「彼らは空に住んでいたが なにかの事情で空からおりてきた」

「そしてマリアを手にいれて 子どもを生ませた……」

「なぜか?」

「…なぜだ?」

「繁殖」

「古書にかかれている有翼人種図をごらんなさい

 むしろ中性的でセクシーではない」

「──思うに彼らは生殖機能が

どんどん低下していったのではないでしょうか──」

 

第三次世界大戦前にもいた、数少ない超能力者たち。

それも有翼人種の子孫である。

二代続いた精霊がもっと続き

生体としての一つのパターンがきずかれれば

異質な存在もまれではなくなるだろう。

この発想と展開が見事ですね。

 

ミッション系の幼稚園に通っていたにも関わらず

どうもキリスト教に対して信心深くなれないのは

この作品と『百億の昼と千億の夜』『はみだしっ子』のおかげです(汗)

 

 

チャシーは村の子どもたちと出会います。

彼女の話から、精霊であると気づかれ

村は精霊狩りを始め、鐘の音が鳴り響きます。

イカルスとダーナ、ルトルはチャシーを見つけ

逃げることに成功します。

ダーナの逃亡に力を貸したルトルは

二年目にして目を覚まし、成長しはじめます。

 

精霊みんなでお茶会を始めようとしたところ

チャシーはダーナになぜ精霊は狩られるのかとたずねます。

ダーナ「ただの時代の風習なのよ 異質なるものは常に迫害されるの

 さあもう考えないで 無事にすんでよかったでしょ

 お茶を入れましょうね」

「今がよければすべてよし

 明日のことまで心配しなくていいの」

チャシー(でもママ あたしは明日はもっと大きくなるでしょ)

(ルトルももっと大きくなるでしょ)

(いつもずっと狩られる心配なしにお茶がのめるのは)

(ほんとうにみんなで幸福なお茶をのむには

 どうしたらいいの?)

 

チャシーは考える時間は十分あると

流れる時間に希望をゆだね、みんなでお茶を飲むのです。

 

☆☆☆

 

さりげない傑作だと思いますね~。

望都さん好きな方でも、反応がうすくてさびしいです。

四大作品は先に記した通り。

あとは『十一人いる!』『あぶない丘の家』

『A’』シリーズなどが大好きです!

『ポーの一族』『トーマの心臓』も好きですけどね。