『宝石の国』

 

市川春子の作品、全13巻予定。

遠回りして永い物語を紡ぎ続けた

作者さん、本当にお疲れさまでした。

 

アニメ化した時期は、物語の中では

序盤だったのだなと後から思える

『火の鳥』『イティハーサ』といった輪廻を巡る

壮大なSFマンガを想起させるお話でしたね~。

 

ブログではしつこく書いているように

世に氾濫している人型擬人化表現は

諸事情によりアンチなのですが

世界の構造と主人公の最終形態予測が

いくつか見えてきたぐらいからは気にならなくなります。

 

最終章がすごく好きなので

そこだけ紙本を買ってしまうかもしれない()

 

以下、感想です。

 

 

 

とはいえこの作品は「解脱」にたどり着くので

想起作品とは別視点にはなりますけれど。

人間の「執着」を捨て去っていくのは

長編では珍しいとも言えるかもしれません。

 

全108話・13巻か~と数字に感慨深くなります。

現実で生きていく読者にとっては、巡礼の旅でしたね……

 

人型擬人化表現はアンチにつき

ぶっちゃけ宝石たちにも月人たちにも惹かれるものがなく

キャラを全然覚えられないまま読み進めていましたが

そのほうが「合っている」読者だったのか?と

疑問符を浮かべております。

 

正体を見せてすぐに「にんげん」の話をしてくれた

第三の種族はあまり物語の中心にやってこなかったので

やはり思い入れなく読んでいくのですが

フォスの形態が加速的に変化していくあたりで

あ、これ「現在の造形」を否定する方向性のお話???と

気づけたのでありました~。

 

主人公であるフォスがわりとあほの子で←

好奇心を抑えられなくて

伸ばしていける能力もないのに背伸びして

遠くに行ってしまった人に執着するあまり

今近くにいる人を踏みにじるのは

事実そうであるし当人に指摘もなされるのだが。

 

「神」に仕向けた月人サイドも

それを容認して生を謳歌する宝石サイドも

最後まで好きになれなかったね……

 

フォス(の体にやどる石)を慕う

アドミラビリスサイドはもったいなかったと

思いますが、有限の存在である故に

重要キャラになりきれなかったんだろうな~。

 

彼らのいいところに触れるのであれば

ユークの問いかけが機能したと知れるのは

最終章でしょう、ということで後に続けます←

 

あと年長男性と少年少女の組み合わせという

グロテスクさを認識・批判描写織り込みつつも

萌えられるタイプの作者さんかな?と思ったので

金剛とエクメアはきつかったですね……

 

フォスが「大事」、フォスを「大事」と

認識しているキャラは「にんげん」の中には

誰一人いなかったという事実が

無に帰った大地に残りますが

新たな出逢いで景色が一変するのです。

 

☆☆☆

 

たしかギリシャ哲学だったと思うのですが

己に備わった能力を発揮することが

幸福につながっていく、という話があり

その通りではあるものの。

 

末っ子のフォスは三百年「放置」されて

《存在を肯定する》という何もなくてもできることすら

与えられていなかったのだな……と

石ころとの最初の出逢いで気づかされるのです。

はて金剛は宝石「たち」を愛していたのか???

 

元「にんげん」たちに対し祈る時も

彼自身の望みはわからないままでしたが

ついに己がわかるようになったのは良きことというか

他者と互いに共有する何かがちゃんと存在する

幸福な時間を、初めて過ごしているんですよね……

 

石の部分を兄機が操縦する宇宙船に託して

永い日々を過ごした石ころたちを見送る時に

「にんげん」への執着を浮かべながらも

穏やかな表情で微笑んでいたこと、神へと

変化する孤独な一万年だけでは不可能だったんだなあ。

 

フォス「楽園にいる」

 「金剛に託された力で彼らと会話し

  月人の研磨によって彼らを汚染する不安から守られ

  恒久の安息の中に私はいる」

 「過程はどうあれ」「それが真実」

兄機「今 何時?」

フォス「まだ一万年を過ぎたところです」

 「本当にすべては変わるんですね」

 「過去や」「意味さえも」

 「最後の章は」「少し優しく話してしまいそうです」

兄機「いいんじゃね?」「結局んとこ今がすべてよ」

フォス「別れの日」「祈りの時」「私も」

 「ありがとうと応えればよかった」

 

☆☆☆

 

一読者の私情をぶちまけてしまいますと

最終章にて「にんげん」がいなくなったので

静謐なトーンで進むパートにも関わらず

テンションマックスで読んでいたのです(爆)

 

宝石たちは区別がつきませんでしたが

石ころたちは作中の名前や音を借りて

全キャラ一気に把握していたという勢い!!

 

過去・現在・未来の「宇宙」を巡り

幸福を思う存在たちが、大変愛おしく

可愛らしく描かれているので

旧い物語を紡いだ作家たちと見てきた

世界は同じなのかなあ、とも思う~。

 

「自覚して」「まっすぐな」悪意を

持っている人外が大好きにつき

目玉の兄機が最高に好み――!!

 

彼の問題発言「クソ上司に隕石をぶつけよう!」は

声に出して読みたい日本語であった()

最終話で幸福に逝けて嬉しかったのだ。

 

月人(主にユークではあると思う)たちに

主人公のことを頼まれていたと

今は小さな石ころとなったフォスに

兄機は語りかけるのですが。

 

粗雑な彼らから細かくは伝わってなかっただろうし

月人の設定した惑星ではなく

主人公を迎えに行って、通り過ぎて

「偶然」たどり着いた惑星で

みんな幸福になっている、というところが

「人外」が至上である、という結論になってしまう。

 

最終章ラジオドラマにならないかな???

語りの芝居と音響だけで構成したほうが楽しそうなので←