『海のオーロラ』

 

里中満智子の作品。全六巻。

古本屋で1巻だけ見つけて

おもしろかったので一気にそろえました。

 

満智子さんが少女クラブ版『火の鳥』に影響を受けて

生まれ変わって何度もめぐりあう恋人たちを題材に執筆。

この『火の鳥』大好きなので、うれしい設定だな~。

 

全部ひっくるめての感想ですので、長いです。

 

 

 

☆エジプト編

一巻~四巻。これで物語の三分の二を占めます。

女王ハトシェプスト治世のテーベが舞台。

 

主人公は平民のルツ。

父親の借金の形に奴隷として売り飛ばされるという

しょっぱなから大変な15歳。

相手役は他国からの人質のレイ。

二人は前世でムー大陸に生きる恋人同士でしたが

エジプト編においてはその要素はちょっとしたおまけですかね。

 

出会い。文字を教わる。ペンじくをもらう。

再会。夜の接待から助けてくれる。

という関係で始まる二人ではあります。

このあとは反乱が起こり、権力者にひきさかれようとするなど

どんどん状況が重くなっていきます……

追放されたレイを追って砂漠にいくルツ

最後の場面は切ないですね。

 

主人公のルツはいい子です。頭もいいし、一生懸命だし。

そして愛する人のために砂漠をさまよい、拷問にも耐える。

ここまでできるなんてすごすぎる!

 

一方レイは途中まではかっこいいのですが、

祖国がエジプトに反旗を翻した後は、

煮え切らない……煮え切らない……(怒)

読んでいて一番いらいらしたのはここかなぁ。

相愛なのを知っているのに、この人動かないんですよ!

ルツにはもっといい人が似合いそうと思った……

 

女性のライバルはライラ。神官の娘で、ルツの主人。

しかしこの子は本当にいい子なんですよ……!

彼女が覚悟する場面は悲しかったです。

幸せになってもらいたかったのに……

死後はずっとルツを見守る存在になります。

 

男性のライバルはレイの親友トトメス(のちの三世)です。

ルツに恋して野望に燃え反乱を起こすという男性。

だんだんかっこよくなってくる

そしてだんだんかっこ悪くなる、の典型例。

王となりルツにふられた後は、レイとの関係を引き裂こうとします。

最後までああだったらどうしようかと思った(汗)

少し救われましたかねぇ……

 

奴隷の少年イサクが大好きです!

イスラエル人なのでこの年ですでに苦労人。

好きになったルツ姉ちゃんを守るため奮闘する少年ですよv v

盗賊首領の隼さんも好き。

遠い前世で敵だったマンモスの生まれ変わりを求めて闘う男。

同じく盗賊だった黒百合さんも好き。美女だったなぁ……

 

 

☆ヤマタイ国編

五巻半ばまでの中編。個人的に一番好きかな。

ルツは漁村の子、レイは流れ着いた外国人。

子供時代から始まる、ほんわかした恋愛がかわいいなぁ。

覚えているのが男の方、というのが好き。

ルツはヒミコに使える巫女としてさしだされ、

数年後レイが迎えに来るという展開になるのですが、

結局結ばれない。この生き方は悲しいけれど、彼女は強いですね。

 

 

☆ドイツ編

五巻~六巻のほぼ最後まで。

第一次世界大戦後。ルツはユダヤ人、レイは日本人。

ルツの父とレイの母が同じ研究所で働いているため、

兄妹のように成長していく。

しかしヒトラーの時代となって……ああ重いなぁ。

これは調べれば調べるほどわからなくなる出来事なので。

 

父親が連れて行かれた後、ルツはレイの家でかくまわれます。

なんかもう、ルツが弱々しくなっちゃってかわいそう……

その後の数年を経て、二人は相思相愛になりますが

ルツの存在がばれて逃げる途中、レイは行方不明になります。

それまでの物語で見せていた彼女の強さは

収容所に入ってから発揮されますね。

 

男性のライバルにフランツというドイツ人がでてきますが

これは今までの中では一番いい人です!

学生の頃からルツに恋していて、収容所送りとなった彼女を探すため、

ナチス党で幹部クラスまで出世するんですよ~。

反乱側などで自分の意志を貫くのはそう難しくないけれど

体制側に与してだとそれは難題です。

のしあがるには相当苦労して、ひどいこともしたでしょうね。

許されないことだとしても、彼には叶えたい願いがあったのです。

 

最後には連合軍側にいたレイとルツは再会するも、また結ばれず。

レイの死がはっきりと描かれたのはこれが最初ですね。

ルツはレイの母の世話をして看取った後、一人で生きていきます。

この時代まで来てもまだ結ばれないのを見ていると

見守ってるライラの辛さは、こちらにもひしひしと伝わります……

 

 

☆未来編

短編ですが、ようやくここでハッピーエンド。

隼さんが出てきます、おひさしぶりです!

服の好みが似ていると……というのはわかる気がするかな。

 

 

☆☆☆

 

全体を読んだ後だと

良くも悪くも、エジプト編は盛り上がりすぎですかね~。

通過儀式のすれ違い部分が、長いのが象徴的……

男性が引いていて、女性が追っかけることが

延々と続くのはあまり好きじゃないので。

ちょっとならいいんですけどね。

 

だからヤマタイ国編のレイは完璧。ドイツ編のレイは合格。

エジプト編のレイは途中から不可になる(汗)

 

隼さんのように自分の意志を貫いているため

女性のつけ込む隙がないのはいいんですけど

あっちこっちに思考がふらふらしているのはいただけない。

その後のレイはまっすぐな男性となっているのは、

満智子さんも、これはちょっと……と思ったんですかね?