『カムイ伝全集』第一部第8巻

 

人はいつまでも若人では

いられないのだ……という

夢破れていく空気に満ちた巻ですね。

 

以下、感想です。

 

 

 

第8巻「蔵六屋敷の巻」

★第1章「怒涛」

死んだかと思われていたクシロは

キクへの恋心を抱えつつも

商人の七兵衛、漁を捨てた人々への

憎しみを隠さないのであった。

 

かつて武士だったト伝が

クシロに修行のようなものを

行っているのですが、フカが

軟骨の生き物に描かれている……

 

奉行所で取り調べを受ける

キクちゃんですが、他の人が

見せしめの拷問を受けても

《相手の望む答え》を言わない強さがある。

 

しかしクルス(=十字架)を落としてしまい

弥助さんは隠そうとしてくれるも

横目が見つけてしまうのだった!

 

赤目の活躍でひとまずなんとかなっても

嫌な予感しかしねえ……

そしてすぐに踏み絵が開始されるのです。

 

キクちゃんの身に死が迫る中

なんとしても助けようとする赤目と

助かるかは彼女次第と語る七兵衛の違いよ……

 

七兵衛「ちがう、

 わたしは医者ではないし 坊主でもない。

 生きようとする意志のない者は

 救えぬ………(中略)

 あとはあの娘しだい。

 死をえらぶか 生をえらぶか。」

 

信仰に生きる者の覚悟を前に

さらってでも助けようとする

赤目の言葉は届かないのだ~。

 

キクちゃん筆頭、踏み絵で

キリシタンと暴かれた人々は

過酷な拷問を受けても信仰を曲げず

次々と火あぶりにかけられる。

 

とうとうキクちゃんの番となり

処刑場に駆けこんでくるのは

クシロであった!助太刀に入る

ト伝と赤目である~。

 

逃亡したキクちゃんの元を

訪れる家老は、百数十人の信者の

命と引き換えに彼女に踏み絵を迫り

彼女は踏むことを選択するのだ……

 

クシロとキクちゃんは二人きりで

島での生活を続けるのですが

やがて彼女の体は蝕まれていき

二人だけの世界は終わるのです。

 

彼女の死を認められないクシロは

群がる生き物と格闘を続けますが

やがてはその躯と向き合うことになります。

 

 

★第2章「査問」

久々のカムイ登場となりますが

絶体絶命の中でも駆け引きが

あるのが、忍びの戦いである……

 

村の皆で育てたワタが

花開く場面は美しいですね~。

竜之進の覚書に敬意があふれている!

 

正助に学問を授けた庄屋さんが

村の若い衆を連れてくることで

嫁取りの波乱が起こるとは……

 

託児所の大騒動に

いつの世も子守りは

大変なのだ!!となってしまう。

 

正助不在の時にとうとう

子をおぶったナナさんと

ダンズリさんが対面する

感動的な場面はすぐに終わってしまい、

アケミさんとゴンの不穏な場面となる。

……何が起きているのだ?

 

無事戻ってきた正助は

夢屋とワタの価格交渉をするのですが

精度の高い情報を入手するのは

いつの世も大変だと思うのです……

 

村の百姓たちに自信が生まれ

赤子を間引くこともなくなるし

庄屋と堂々と渡り合うこともできる……

暗い顔のアケミさんが気になるが。

 

アケミさんとゴンの問題が

やっと読者にもわかる形で

描かれるのですが、

婿を取らねばならない家の娘

VS後を継がなければならない長男か~。

 

何年も待てない、今決めてほしい

という駆け引きに参加してくる

末っ子で婿入り可能な五郎という

手札は強いねえ……アケミさんも

生活がかかってますからね!

 

他の藩の様子を見てこようと

旅に出た正助が、その足の速さから

忍びに間違われる場面、

た、大変すぎる……!!と思いましたわ。

 

 

★第3章「蔵六屋敷」

忍びの取り調べを受ける

正助ですが、忍びVS忍びに

慣れてしまうの良くない!と

反省しますね……カムイならひるまない←

 

忍びではなく百姓と判断された結果、

口封じされようとする(!)正助を

助けてくれたのは野鍛冶さんなのであった。

 

仲裁に入った、山の頭にも認められる

正助なのですが、人の輪ほど

生存の味方になるものはないな……

 

正助の生きざまを見守り続け

己の生き方に思いをはせるカムイである。

あれが義理の兄というのも辛いよなあ……

今までの作者の語りも容赦ないし←

 

犬を自在に操る場面は好きです。

みなよい体躯をしている

犬なのだ……しっぽも

ふさふさで立派なのだ!

 

カムイが立派に育てた犬たちも

犬追物で無残に殺されていきますが

これほど生産性のない勤めもなかろう。

しかし犬と人とに違いはあるのか?

 

寺の記録で日置藩の秘密を探る

忍びたちですが、おカメ様事件は

読者にも印象強いよな……

本当に食べるとまずい何かがあるのか?

 

忍びの戦いを制するカムイですが

生き抜いたその先については

迷いが多かろうよ。

 

 

★第4章「不穏」

アケミさんと五郎の結婚式で

始まる新章なのです。

ゴンの顔はすさんでおりますが

婿取りは大事だから……

 

しかも正助との関係が破綻しそうな

予感にあふれている回想場面を出されて

読者も時の流れを感じてしまうのですよ!

 

婿が必要だったとはいえ

望まぬ婚姻であると隠さない

アケミさんとゴンとの一瞬の出会いは

あっという間に亭主にばれるのだ。

 

何もかも自分でできると見えてしまう

正助に負けない、立派になるんだと

決意したゴンはどこに向かうのだろう。

 

 

★第5章「飢餓」

他国をめぐる正助が見たのは

少ない食料をめぐって

争う生き物たち、そして

百姓を見殺しにする支配階級たちが

もたらしたこの世の地獄であった。

 

この短い章の最後にようやく

作者の語りが久々に入るのですが

他の章ではスペースだけだったので

なぜ入れなかったんだろう?という謎が残りました。