集団の不和を招くために
女を「贄にする」という最悪事件が
繰り返し起こされるのですが、
徒党の男に襲われた《ひとりの女性》の尊厳に関し
巨匠の出した回答が見事だ……
弱者が酷い目に遭う話を描くなとは言わないが
作家が何を主張したいのかは問われるのだ。
まだ第一部すら半分以上残っているとはいえ
おそらく物語中屈指で美しい場面が
描かれているのであろう第6巻ですが、
彼らの前途に永い幸福などやってこないことは
予想がつく、それでも生き抜くことを選択するのだ。
以下、感想です。
第6巻「八方変現の巻」
★第1章「かくれみの」
師匠である赤目を追うカムイですが
薄幸の美青年はすでにあきらめの色に
染まっているのだ……それは
かつての彼が求めた姿ではないんだな。
一揆の首謀者として引っ立てられる百姓たちへ
場面は変わり、先に身をなげる妻もいますが
夫が拷問に口を割らないので
責められる妻たちもいる……
拷問をしている当の侍が、人の子か?
なんとも思わないのか?と非難するの
お前が言うのか!?と読者は考えるし
反論する百姓たちは強い。
そして百を超えた老人は
百姓の法から解放されると作者が語る中、
村の女を全員連れて武士を脅迫する老婆は
圧巻の姿であり、こんなおばばになりたいな!!と
心から思えるのである!
カムイが化けた隼人、
何者かが化けた小六、正助が
対峙する場面は、白土忍者による
だましあいの真骨頂ですね~。
赤目が化けているのは
小六ではなく、正助のほうだと
気づいたカムイではあるが
姉であるナナと恋仲である彼には
手を出すことができないでいる!
勉強会で皆と語らう正助くん、
その言葉を本物だと信じるカムイであるが
この発言は名言である……
正助「わしら物を作る百姓がなけりゃ、
この世はなりたたねえってことが
身にしみてわかっただ
(中略)誇りをもってええだ。
わしらが働いて、それで、
みんなが生きてるだ。」
ナナさんが呼んでいると知らされ
勉強会の場を離れた正助くんですが
一揆の首謀者として引っ立てられてしまう!
何もできない己を嘆くカムイであるが
たたみかけてくる作者の語りが容赦ない……
★第2章「助命金」
正助くんが処刑される悪夢に
うなされるナナさんですが、
正助の父が捕まった知らせを受け
ナナさんを寺にかくまわせる
苔丸はかっこいい!
正助くんが一揆に不参加という
「証明」を作るために非人たち、
村の若い衆がまず立ち上がる!
密告人として有名なシブタレが
まず疑われるのですが、こんな
やばい仕事はやらない!と迫真の告白もあり
真犯人はすでに自殺していたのだった……
父共々、拷問を受け続ける正助くんですが
二人ともお互いを思うからこそ
「自白」することはないという強さを示し
カムイも感心するのであった。
正助くんの助命嘆願のために
訪れる者たちは、村の庄屋に始まり
別の村の庄屋、百姓たち、さらに
非人村のみな……と大勢なのである。
さらには寺の和尚、剣客、
商人たちのアシストもあり
(各々の考えが明確で良い~)
城代と正助くんの面会もかなうのだ!
そして領内を見渡せる山頂で
正助くんは城代に自らの夢を
語るのであった……藩を豊かにする、
自らの死の先も見る、大きい男よ!
正助くんは無罪放免となりますが、
玉手村の皆さんは金二十両(!)の
見受金により釈放される形となり
百姓の意地を見せ、自害するのであった。
しかし支配者である武士たちも
百姓・非人の分断を始めとした
身分制度が揺らいでいることに
手をこまねいているわけではなく
互いにいがみ合うよう動き出す……嫌いだ!
まず「贄」として選ばれたのは
女ひとりで遅くまで田を手入れしなければならない
アケミさんであり、非人を装った男たちに
手ごめにされてしまう。非人刀という
わざと残された「証拠」のだめおしよ!
救いとなるのは、アケミさん本人が
相手がだれかわからない、恋人である権も
わざわざ証拠の品を残すはずがない、と
主張できる人たちであることだが
非人の「仕事」もあり、暗雲が立ち込めます。
そして血気にはやった百姓の若い衆と
見せかけた集団が、しかえしと主張し
ナナさんを襲うのですが
やはり発想が「贄」なんだよ……
着物を奪われてしまったナナさんは
身一つでどうくつにたてこもるのですが
苔丸の説得にも自害をちらつかせるのだった。
支配層が裏で手を引いていた分断策が
功を奏した頃、やっと釈放される正助くんですが
侍による拷問を受けた傷だらけの裸の姿で
ナナさんの説得に向かう!
ここでずっと「ナナさん」呼びだったのが
呼び捨てになるのは、腹をくくったんだな感が
とても出ていて私は好きです。もはや
「あこがれの人」でも「恋しい人」でもない。
「よく生きていてくれた。」という言葉を
あらゆるサバイバーにかけられる人が
現代でも、いったいどれだけいるのだろう……!!
日が高く昇る中、生まれたままの姿で
身分も関係なく、互いに愛し合っているのだと
皆の前で宣言する二人の姿が美しすぎて、
外野の読者すら涙で見えない……
ここにきて、今まで登場した「カムイ」たちの
名づけ親ともいえる山丈が登場し、
正助とナナを肩に乗せカムイと触れ回るのは
やっぱりそうですよね――!?とうなずく。
ずっと正助伝なのでは???と読んでたからな。
★第3章「八方変現」
本名はまだ知らないものの
部下である市が抜け忍としった
七兵衛が協力者となっているのは
赤目もうれしい驚きなんだろうな。
身代わりに死んだ男の死体を
始末する場面にて登場するサメの群れが
ちゃんとサメの動きしていてすごい……
(サメの数日本一水族館がホームなので厳しく見る!)
資金面でも頼りになる協力者を得た
赤目と忍たちの戦いは苛烈に
なっていくのですが、死体処理担当の
エビ・カニ・ウツボはちょっと
オーバー表現っぽいかな??
商人の下で働き始めた漁師たちも
仕事に不満を抱き始めますが
「責任者」を選ぶことで鎮静化させる
七兵衛は上手である~。
キクさんにもロマンスが訪れていますが
彼女が隠れ切支丹であることが
今後どう響いてくるのか……
商人と剣客の駆け引きの裏で
赤目と忍の戦いは続いておりますが
カムイも変装して登場するので
油断できない!
そしてキクさんのロマンスは
ひそかに終わってしまったのだった。
商人の元で働く漁師の未来を憂う
クシロくんは良い人だったのだが……
いい人はみんな死ぬ!それがカムイ伝!!
★第4章「掟返し」
皆の前で愛を宣言した正助とナナは
奉行所に申し出た結果、拷問を受けますが
それも承知の上、と返した上でこの発言よ。
正助「あんた方のしうちをみなみてるだ。
(中略)愛しあってるおらたちを
こんな目にあわす者が人間か、
それともそれにたえてるおらたちが人間か
みなみてるだ。」
一方のナナさんもはりつけの刑に
処されておりますが、カニの棲む土地で
「放置」されるのはつらいものがある……
虫よけの油を助太刀する少年が頼りになる!
作者の語りで「女の晒しには、つきもののイタズラ」と
(現代なら、別の表現を採用せねばならんね!)
すでに書かれていたので読者も心構えができますが
ナナさんを襲うためにやってきた集団は
アケミさんの事件も自白したのだった。
横目に頼まれたと見張りの非人に語るうちに
権たちが駆けつけ、苔丸も加わり
ぼこぼこにしてくれるのは頼りになる~。
横目の裏にいるのは侍たちだ、と
苔丸は語り、女たちを襲った落とし前として
好物をまたぐらにぬりたくった上で
カニの棲み家で犯人をはりつけにしておくの
女性でもぞわぞわする罰である……
でもそのぐらいしていいよね!?
村の中で密告人として活躍している
シブタレにも色々あったんだな……と
思わせる正助とのやりとりである。
かつての被害者なんだよな。
釈放された正助とナナは
大勢の前で再会を喜ぶのですが
こちらもよかったね~!!としか
思わんよ、この先も大変ですけど。
有能な商売人である七兵衛は
金の力でナナさんを百姓の養子に
してくれるんだろう、と予想した正助は
それを断り、本題の新田開発の資金援助を
取りつけるのであった~。
漁村での戦いを何とか生き抜いたカムイ、
彼の未来を思えどその地を去る赤目、
キクさんのまわりからどんどん人がいなくなる……
赤目を処分する任務に失敗したカムイも
上忍たちの手にかかるのですが
まあ……生きてるよね!!
そして舞台は江戸に移りまして
久々の竜之進・一角コンビの
登場となります!領主もいるんだったか。
嫡子を狙っていた竜之進たちは
同じく仇討ちと称し切り込んだ侍に
先を越された形となりますが
養子の手続きがすぐに通ることで
藩の取り潰し可能性はあっさりなくなり……
日置藩とは、幕府にとってどのような土地なのか?
といった謎もふくらむのであった~。