白土三平の作品。
外伝は読んでいたのですけれど
ついに挑戦することになりました。
冒頭から絵の緊張感がすさまじい……
最初は第一部まとめての記事を作ろうかと
考えていたのですけれど、正直……
道のりが遠い!きつすぎる!!となっているので
まずは最終巻にたどりつくのだという
決意を完遂すべく、巻ごとの作成となります。
以下、感想です。
刊行にあたって、の序文が強すぎる(2005年か…)
ので、もうこの引用で終わってもいいように思えますが
以下略(前もこのパターンあったぜ!)。
今も無言の死を叫んでいる人々がいる。
日本では年三万人余の自殺者がいると聞く。
いつの世も風は凪ぐ事もなく、激流は人々を押し流している。
前方に大きな渦が見えている。
しかし、我々はこの川を泳ぎ切らねばならないだろう。
時は徳川が世を支配する封建社会、
寛永の末から寛文年間に至る三十数年の中で
身分制度という権力によってつくられた差別政策に
押しつぶされそうになりながら、少しでも前に進もうとした
「にんげん」たちの物語である。
第1巻「誕生の巻」
★第1章「誕生」
シートン動物記かな??という
オープニングなのですけれど
地を走るもの、空を駆けるものの
絵がお見事だ~!!
犬追物にて、逆らわない「賢い」犬と
侍に牙をむく狼を出してくるの
さすが~!なのである。
百姓一揆のリーダーとなった人物の
山狩りにて「非人」を使う領主たち、
百姓の憎しみは支配者層の侍ではなく
「実行」させられた非人に向かうという構図
絶対に壊さなければならない「仕組み」なのですよ。
物語で明確に描かれているのは無論、
作者のナレーションにより徹底して
突き付けられる、反差別・反権力の姿勢である。
少数の武士が多数の百姓を支配していくためには、
人びとを分裂させて互いにいがみあいをさせておかなければならなかった。
百姓が苦しみからぬけだすために団結することを恐れまったく同じ人間どうしを、
士・農・工・商・非人という身分制度で、差別したのである。
★第2章「カガリ」
早春、マタギたちによる
クマ狩りから始まります。
伝えたい内容を明確にするための
細部情報の取捨選択が見事だ。
(どこまでも正確性にこだわるのもまたよし)
章タイトルはクマのテリトリー名なのですが
物語の中心となるのは
家族から仲間外れにされている
白い仔オオカミなのである……餌の欠乏を補うべく
差別が正当化されていく過程、かなしい。
読者に感情移入させるべく
白オオカミの表情は擬人化されていますが
動きはイヌ科のそれで、職人技ですよ~。
迫害がエスカレートしていくのも、かなしい。
母オオカミが亡くなり、群れから孤立した
白オオカミが事故により人里に流れ着くの
逆に安心してしまう……!
赤子(後のカムイ)と交流する場面での
「敵意も警戒心もなければ、たとえオオカミといえど
相手を餌として考えたりはしない。」という断定の力強さよ!!
そして作家の筆はのっているものの
締めの語りとして、人間社会の差別と
自然界で生きていく野生動物の差別とを
同一視してはならない、とくぎを刺すという
隙のなさがよいのだ~(家畜なら対照可能かも?)
★第3章「剣」
下人の子・正助が、成長したカムイくんと
邂逅する場面が良いな~。瞳の奥に
世界への憎しみをたたえた
美少年がいる……笑ってない!
役人が百姓の土地を見分に来る際
当然のように「ソデの下」が必要となるの
息苦しい……つらい……
そして権力者に苦しめられている百姓のうっぷんは
さらに下の階層に「設定」されている非人に向かい
その状況にカムイは怒りを隠さないのであった……!!
根が善良なこともあり、その身の権力をふるうことのない
家老の息子・竜之進を軸にとして、剣の修行パートに
尺が使われておりますが、若者の心構えに対し
武術は人が人を支配するためにあり
人を殺す方法なのだ、とあっさり語るご老人が強い。
カムイが相撲が強い少年・仁助と
つかのまの勝負という名の交流を
するのですが、読者の予想通り
権力者の少年の横暴で死亡します()
しかし締めの語りにて
社会主義を嫌う当時の若人が、その理由を
《一律に平等にされ、与えられた以上の
事を成せない、無気力な社会》と語るの
資本主義に毒され過ぎ~となるのですよ(爆)
★第4章「マスどり」
百姓に禁じられた文字を学ぶ
下人の子・正助くんと
よその村の庄屋さまの交流が
とてもすがすがしい……いつまで続くのだ←
領主の「遊び」の狩猟において、獲物の
「おぜんだて」をするのは非人であるが
百姓たちは田畑を荒らされて苦しみ
怒りを非人にぶつけるという構図が延々続き
だ、誰も幸せにならない……!
《この環境は絶対におかしいよ》と考える
若い世代がカムイのみに非ず、という
状況もどんどん変わっていくのでしょうね……
狩猟に参加していた侍・竜之進くんの
矢が百姓の娘・オミネに当たってしまうことから
交流が始まるというのも嫌な予感しかしない()
作物の出来が悪い年、百姓が税率を下げてもらうべく
申し出る「検見」という制度の説明を兼ね
物語が展開されるのですが、税をぶんどりたい
侍たちの行いが人道にも劣る……相手を人間と思ってないからだが。
百姓娘が裸踊りさせられてるの、紙の本じゃなくてよかった……!
年貢米の検分、落ちた米が全て
検査を行う役職「お蔵方」の取り分になるという
誰だよ、そんな制度を考えたのは!?という状態で
差子・マスでがんがん米がこぼれていくの、きつい……
しかし村の庄屋たちは情報を即座に共有し
奉行所に徒党を組んで向かい
不正行為を直訴する気概もあるのだ。
竜之進くんとオミネさんは
身分違いながらもあいびきを重ねた結果、
お忍びの城主(奥方は江戸で人質じゃ)に
オミネさんは目をつけられ襲われかけ
藩政を憂う家老への逆恨みから
竜之進くんはけがを負わされるという
悲劇へのなだれこみが早いですよ……