『忍者武芸帳 影丸伝』

 

白土三平の作品、電子版全8巻。

 

好きな作家・矢口高雄の

お師匠さんと勝手に認定している、

背すじを伸ばして向かわねばならぬ

偉大なる作家さんなのである~。

 

以下、感想です。

 

 

 

作者のあとがきがもうすべてを

語っており、そこで終えてもいいんですが()

引用後に駄文感想を続けるのだ~。

 

超人的な力をもち、架空の永遠の正義感をふりまわし、

非現実的な行動に終始する英雄なんてものは存在しないと思っている。

従って、そういった人物を主人公に、ドラマを展開させることはできない。

ひとりの人間の行動は、そいつの育った環境、

そいつを成長させた時代の発展段階の範囲をでることはできない。

地理的な風土、習慣、生理的なものにも、左右されるだろう。

そして歴史は、個人の力で動かしうるものではない。

だが、ある決定的瞬間に、個人の力が大きく全体に影響をあたえることもある。

ある個人なり階層に、時代が大きく超人的行動を要求する場合もある。

だからこの物語の場合も、あの戦国の世を戦いぬき、

時代を前進させる原動力となった人びとを、

影丸という人物にしぼって現わしてみたかっただけだ。

 

☆☆☆

 

時は戦国、織田信長を筆頭とする大名たちが

天下を取らんと争いを繰り広げる中、

平穏な生活というささやかな幸せすら消え失せる

生き死にがかかる状況で立ち上がった

名もない「農民」たちの戦いの物語である……!!

 

タイトルは『忍者武芸帳 影丸伝』であり

忍者・影丸の活躍も鮮やかに描かれますが

読者である私たちは、侍でも坊主でも忍者でもなく

搾取され蹂躙される農民たちであり、「私たち」のために

戦おうとする影丸が好きなのだと気づかされるのであった!!

……少なくとも60年代に生きた「日本人」は。

 

作中で何度か年表が登場し明らかになるように

十数年に及ぶ長い時間と人物が交差する構成で

情報を整理するのが大変ですけれど

連載時の読者は熟読したろうしな~。

 

魅力的な人物が大量に登場するのですが

(女性の生存に優しくないが、そもそも男性も……)

浮浪児が群れをなし、城を拠点とし

自由を掲げ「独立王国」を築こうとする

展開が熱すぎる……!!崩壊理由も納得するが(泣)

 

長い長い戦いの物語の締めは

太閤による刀狩りの命に対し成す術がない

農民たちの「敗北」ではあるものの、

生き延びた子どもたちがやがて夫婦となり

新たに生み出していくと信じられるのは、じーんとしますね……

 

☆☆☆

 

おそらく原稿から直接ではなく

既出版物(文庫版かな?)のデータを

デジタル化している具合ですが

それでも伝わる、圧倒的画力……!!

 

この時期の白土さんは、線を一本引いただけで

それが水平線なのか地平線なのか、

木の枝は生きているのか死んでいるのか等々

まさに職人技という描線がまぶしすぎる……

 

戦後すぐのマンガ家さんたちの

(私から見れば劇画もマンガなので)

線数の少なさはあこがれるな~。

ああいう絵が死ぬまでに描けたらいいな!!

 

まず骨があって、筋肉があって、皮がかぶさって、

そこに毛が生えているというような

「本物」の動物の絵を描ける作家の一人ではあるんですが。

 

今作においては、カメのこうらがちゃんと

こうらであるのと、厳しい環境下に生きる

動物の毛皮がぼたっとしているのが好きです。

見ればわかるんだよ……私は全く描けないけど!!