『茶色の服の男』

 

アガサ・クリスティーの作品。

 

しばしノンシリーズのターンと

なります~。今回は冒険小説の時間!

 

妻を亡くした考古学者のひとり娘として成長し

「冒険」にあこがれる活動的な主人公が

執筆した手記である(別の協力者の手記も挟まる)

という設定が強い!!

 

以下、感想です。

 

 

 

自分は妻の身代わりではあったが

親子の愛情はなかったと断言する主人公が

父親が突然死亡し身寄りも財産もないまま

弁護士の家に身を寄せるところから

大冒険が始まるのです。

 

鏡の前で自分の理想とする

女流冒険家のコスプ……げほんげほん、をし

ポーズと台詞をばっちり決めた後の

「女の子って馬鹿なものだ。」

手記の一文が痛烈にして明解!

 

そう、おなごたるもの、いずこの国・時代でも

女の子であるという一点で「共感」できるのである!!

 

主人公がある人物の事故を目撃してから

冒険が「ふところ」に転がり込んでくるまでの

しろうと探偵の活躍ぶりの描き方、

クリスティーはさすがですね~。

 

主人公が拾った謎のメモはある船旅の

ある部屋・日時を指していたのだ!と

読者に開示されてから、あっという間に

ボーイミーツガールとなるのでした(双方成人ですが)。

 

船旅の道連れとなった個性豊かな面々のうち

協力者になってくれそうだと見立てた

夫人に真実を打ち明け、冒頭から

織り込まれていたエピソードがつながるのは鮮やか!

 

恋の話に一気に傾くのは

クリスティー作品だな!!と思うのです。

冒険小説なのでこの強引さが心地よし。

 

主人公が拘束され監禁されるという

事件が押し寄せますが、ガラスの破片を

活用することで、情報を得たのち

脱出に成功!体力は大事ですね!!

 

あらゆる人々が怪しく見えてくる中

友人となった夫人の助力が

本当に心強い!駅の下りはかっさいをあげますわ。

 

道中、魅力的ではあるが怪しい男に

主人公が求婚されるという展開も

クリスティーだな~!と思ってしまうのです。

本命の男ではないので断るわけですが。

 

罠にはまった主人公が本命の男に助けられ

南アフリカの小島で療養するくだりは

なんだこの展開は……!となること間違いなしです。

燃え上がる恋の炎であるよ!!

 

目の前の男が語る、ダイヤモンドをめぐる

友情、策略、喪失の物語は

大変ドラマチックなのでありますが

主人公の冒険も負けてはいないのだ!

 

別れの話を終え、いよいよ旅立つという

場面で、突如銃撃戦が始まり愛の嵐も起こり

(そんなところで口づけしている場合か!

VS 今しなかったらいつするんだ!の戦いですよ)

結婚の話もまとまり、にやにやが止まらねえのだ。

 

ここからあぶりだしとなります。

 

物語がクライマックスに向かう前

今までの情報があっという間にひっくり返る

その一瞬の場面を描くのが本当に

すごい作家さんだ~。

 

途中から物語に加わったおばさん秘書が

女装した男装だなんて考えつかなかったよ!

そして手記の「協力者」として登場していた

人物が黒幕という鮮やかさですよ!!

 

相手が本物か否か見分けるための

合言葉を決めておいたことで

黒幕を罠にかけることに成功し

あっという間に追い詰める痛快さ!

 

本命の男(ちょっとした謎解きもある)と

めでたく「立派な」結婚へ進んでいたところ

愛を育んだ小島へ帰ろう、から

一気にエピローグへ向かうのお見事です。

 

後年、この作品で使われたトリックが

根幹部分として利用された傑作ミステリ

『アクロイド殺し』が発表されることになりますが

物語の楽しさに全振りした冒険小説も

また良きものなのであります~。