ラルフ・イーザウの作品、上下巻。
少しずつ「ことば」が失われていく街で
城主に戦いを挑む少女・パーラの物語。
大長編『暁の円卓』完結後に
発表された一作のため
とても軽やかな仕上がりです。
注釈を一切入れずに翻訳されており
苦労がしのばれます……
以下、感想です。
日本語翻訳版は上下構成となる関係で
「ことば」の喪失に伴い災いの気配が
人々の生活に影を差していく上巻、
ことば泥棒である城主の城周辺に広がる
不思議な世界での冒険となる下巻という
構成になっており、面白さにエンジンが
かかるのは遅めではあります。
翻訳者の語る、モモとアリスの再来
というのはまさに!という評価でして
究極のソネットを筆頭とする
「ことば」遊びがたくさん盛り込まれております。
現実世界にも存在するが
明らかに違うタイトルの本なんて……
ちょっと読みたくなりますよね!!
『ピーターと大神』『首輪物語』が気になる。
魅力的な主人公であるパーラも
ことば泥棒と化してしまった城主を始め
この街にずっとゆかりのある一族の
血縁者なのか!というがっかり感もありますが
家族愛を大事にしている作家なので
まあ仕方ないのか←
歪んでしまったことば由来の化け物たちは
ちょっと気の毒な造形描写満載なのですが
コトバガリの中で唯一「自我」を得た
トッツォはかわいく見えてくるので
結局見た目ではなく中身なんですね。
後に仲間になってくれたモグモグも愛らしく
ハッピーエンドとなった後も
古城の周辺に棲んでいるであろう彼らと
パーラに交流があったらいいのにな、と思うのです。
発表当時「ことば」の喪失状態は
テレビに染まり過ぎた弊害を
イメージしていたと思うのですが
今ならSNS中心のインターネット空間かもしれん。