ひかわきょうこの作品、全14巻。
今では珍しくなってしまった
異世界転移(やがてはトリップ可能?)ものの
決定版にして、大傑作少女マンガ。
『彼方から』発表を境として
異世界転移・トリップものに求める
リアリティラインがかなり変わったのだ~。
元の世界にもちゃんと居場所のある人が
言語習得から開始して異世界で
「生きる」ことを選ぶお話です。
正直「ひかわきょうこ」作品というくくりなら
他作品のほうが好みではありますが
万人にお勧めできる最高の物語である。
以下、感想です。
「異世界」に渡るお話というのは
児童文学だと古典とも呼べるジャンルで
(扉を開けたり、トンネルをくぐったり)
大体は現世で何かしら問題を抱えており
マンガでの転移・トリップものも
ここを大きく外してくることはなかった印象ですが。
「天上鬼」と呼ばれる存在を
「目覚め」させるために呼ばれた少女・典子が
(お家へ帰りたいよおお)と第一話で涙する
そんなふつうの、異界に渡る必然性を持たない
女の子というのがポイントなのですよね~。
異世界に渡ったからといって「本人」が
何か特別な力に目覚めるということもなく
そもそも人との会話すらままならない状況で
物語は動き出すのですが。
(言葉は勉強すれば わかるようになるじゃない!)
(突然 この世界へ飛ばされたけど)
(きっと 何か使命があるんだって)
この発想ができる時点で、ノリコちゃんはすでに
「ふつう」の「弱い」女の子じゃない――!
とツッコミを入れたくなるのですが
《今の自分にできることを精一杯するんだ》と
駆け抜けていく、最高の「戦う」女の子に
成長していくのです!!
片や運命の相手でもある「天上鬼」の力を
その身に宿すイザークは、特殊能力もあわせもつ
(この世界は魔法の概念がなく、異能扱い)
渡り戦士として生計を立てている青年ではあるものの
出生時より「怪物」とみなされ育てられていたこともあり
心の弱さを抱えているという側面がポイントで
異なる二者が並び立つ共同体となっていく心地よさがあります。
まあこの背景のおかげで、恋愛面においては
ノリコちゃんが己を「目覚め」と知るまで
彼女が恋愛感情としての好意を伝えているにもかかわらず
彼はどっちつかずで煮え切らない、「当て馬」にすら
その状態を指摘されてしまうという情けなさが
見えてしまうのですけどね~。私はバーナダム好きなのだ!
恋愛面での結びつきも、関係性の変化をもたらす
一部であって全てではない、という
中盤から最後にかけての描き方は好きでした。
山場の手前でもだもだした甲斐があったぞ←
タイトルがなぜ『彼方から』なのかという
種明かしを含めた本編のラストも、
二人が見出した「光」が地球側も含め
世界中に満ちていけばいつかは
異世界間での移動も簡単になるのでは?と
エピローグ含め大団円なのでした。
☆☆☆
日常恋愛ものを得意としながらも、不良のけんかや西部劇で
アクション作画の巧みさを見せていたひかわさんですが
『彼方から』はその画力が際立っており
異世界の生活感あふれる建物・小物・人々・生き物のリアリティや
異能者が縦横無尽に暴れまわるバトルシーンも、見事でした~。
まあ画力の高い人が、見た目・内面が崩れていく
「化け物」を描くと洒落にならないぐらい怖すぎるという
弊害もありましたけれど……ラチェフがノリコちゃんの
髪をずたずたにする場面とかがきつい。
その逆もしかりで、内面の自信を得たことで
顔の作りが劇的に変わったわけではないけれど
表情や姿勢により「かっこよく」見える
バラゴさんやドロスさんも素敵なのでした。
近距離・長距離テレポーテーションを容易とする
不思議生物チモちゃんたちも、つり目なのですが
仲間に加わるとみんなかわいく見えてくるのだ~。